DXが叫ばれて久しいですが、DXという言葉が普及し始めた当初と比較すると、その目的も多様化してきています。
以前は、海外企業と比較してイノベーションの遅れやIT投資・システム投資による業務効率化などの視点で語られることがメインでしたが、SDGsやESGの観点から持続可能性や従業員にとって平等かつ多様的な働き方も同時に求められるようになりました。
現在は、多くの企業がDX推進に何かしらの打ち手を講じています。しかし、本格化に達していない原因のひとつにDX人材の枯渇や明確な経営ビジョンに基づいたDX推進のロードマップが立てられていないことも大きな要因です。具体的には、IT投資による効果・評価が見えず、導入の障壁となっている事実もあるでしょう。
IT投資に踏み切る際には、導入コストに対しての利益・効果である「ROI」と、システム所有にかかるすべてのコスト「TCO」について、近年のIT投資の動きとともに解説します。
国内企業のIT投資予算は回復傾向
DX推進と働き方改革が叫ばれるようになり、これまで以上にIT投資に注目が集まっていましたが、新型コロナウイルスの感染拡大により、一時的に多くの企業が投資に抑えるようになりました。しかし、IT調査・コンサルティングのITRが発表した「IT投資動向調査2022」[※1]によると、IT投資予算を増額すると答えた企業は全体の35%、減額すると答えた企業は11%となっており、企業のIT投資は再び成長軌道と戻っていると報告しています。
またコロナ禍において、約半数の企業が新型コロナウイルスの感染拡大を機に在宅勤務の実現など自社のDXが加速したと答えています。ノートPCやタブレット、スマートフォンなどのモバイル端末の導入がテレワークなど多様な働き方を実現するために不可欠であることに加え、様々クラウドサービスやソリューションを活用することで業務効率化が進められると、残業時間の削減など持続可能な働き方へと直結することが、IT投資が重視されている理由でしょう。
5GやIoT、AIの他、電子管理、署名などが人気
さらに同調査では、IT製品・サービスで2022年に導入可能性が高いものものアンケートも発表されております。
上位は「5G」「AI・機械学習」「IoT」「チャットボット」など製品・サービスの新規開発や抜本的な業務フロー改革に結びつくものが目立つなか、「電子契約/契約管理」「電子署名/タイムスタンプ」「ITサービス管理」など日常的な業務に関連するITサービスも依然需要があり、DX推進は「攻め」と「守り」に2極化していることが分かります。
とはいえ、コロナ禍では、「ウェブ・ビデオ会議」など在宅勤務への対応が求められるサービスへの投資が急激に拡大したように、その経験を踏まえてより一歩踏み込んだ新規サービスや業務効率化を目指す動きが顕著となりそうです。
IT投資で把握すべきTCO(Total Cost of Ownership )とは
IT投資をする際には、まずROI(費用対効果)の見極めが欠かせません。しかし、前述した通り、IT投資による効果・評価が見えにくい課題があります。たとえば、IT機器・サービスの導入により、従業員に多様なワークスタイルを提供できたとしても、コストに対して十分な効果、労働生産性の向上を見込めなければ、本当の改革の成功にはまだ遠いといえるでしょう。そこで重要になるのが、「TCO」です。
TCO(Total Cost of Ownership)は、IT関連の総所有コスト
TCOは、「Total Cost of Ownership」の略で、IT製品やサービスの初期費用から、維持費、管理費、人件費などを含めた全てのコストの総額を指します。TCOでは、金額の他に時間やスペース、リスクなどもコストとして捉えますが、つまりTCOはITの資産管理です。ただし、TCOで目に見える部分は意外と多くありません。
例えば、PCやタブレット、ソフトウェアなどの購入費用は非常に明確に把握できます。しかし、PCをリプレースする際に古いPCを廃棄する代金、保管する場所はなかなか見えにくいでしょう。クラウドサービスで1アカウント分、未使用の場合も同様です。
このように見えにくい要素として、維持・管理にかかる情報システム部門の工数が挙げられます。例えば、経営がハイスペックなソリューションを導入しても、従業員が使いこなせずに毎回情報システムに問い合わせをする、などが起きるとTCOは増幅していきます。当たり前ですが、新しい製品・サービスは導入するだけでは効果で出ません。教育・サポートにかかる時間と費用があります。
TCOはIT投資に関して、ヒト、モノ、金にまつわるコストを算出するため、その導入効果や評価をするのに欠かせません。
コストの一例
見えやすいコスト- 製品、サービスの購入費
- 維持、管理にかかる時間と費用
- 従業員が使いこなせるまでのトレーニング時間
- 初期のキッティング
- 不具合時における機会損失
TCOを削減する方法と見るべきポイント
TCOを正確に把握することによって、IT投資の正確なコストを把握できるようになり、導入後に効果が出なかったというリスクもある程度回避することができます。また様々な観点からTCOを見直し、削減することができればROIを向上することができます。TCOを削減する方法をいくつかご紹介します。
短期ではなく長期的なサイクルで見る
IT投資を行うにあたり、サービス提供企業にTCOやROIを依頼することができます。新規でITシステム、サービスを導入する際には、あらかじめ費用対効果を検証しておくとよいでしょう。
このとき、クラウド型のシステムを導入するのか、それともオンプレミス型のシステムを導入するのかによって、TCOが大きく変化します。クラウド型のシステムは月額費用がアカウントの数だけ発生し続けるため、利用する期間がながければ長いほど、システムの利用料金がオンプレミスよりも高額になる可能性があります。しかし、機器の設置の必要がない分、初期費用は低額になりますし、サーバー費用などもオンプレミスと比較すると定額になります。また情報システム部門の維持・管理も大きく改善できるでしょう。
その一方で、自社にIT機器を設置するオンプレミスの場合、見えないコストが生じている可能性が考えられます。たとえば、最新バージョンのソフトを使用するために別途費用がかかったり、また更新作業を行うために手数料がかかったりする場合があります。クラウド型のシステムを利用することで、これらのコストを削減でき、TCOをより抑えられるかもしれません。
必要と不要を見極める
もっとも基本的で重要なのは、端末やサービスに無駄を洗い出すことです。クラウドサービスですと従業員の利用率などをモニタリングする必要があるでしょう。
しかし、企業規模や導入規模が大きくなればなるほど、情報システム部門の管理コストは増大します。導入したサービスが従業員によって利用されているかどうか、サービス元に不具合は発生していないか、情報漏洩に問題は起きていないか、などDX推進を進める上での大きな課題です。
そのためには端末やアプリの一括管理などのMDMなどの導入が有効ですが、教育・サポートに関しては運用上常に発生するコストとなります。提供元によっては一括のマネージドサービスも行っていますので、TCOやROIの見積もりを依頼する段階で問い合わせてみるのが良いでしょう。
まとめ
IT投資をご検討の際には、運用後に想定されるコストからROIとTCOを算出して、費用対効果を検証しておきましょう。IT投資によくある課題として、予算オーバーやシステム要件の過度な膨張などが挙げられますし、導入後の定着までにかかる時間も換算しなければなりません。システム運用後の自社のあるべき姿に合わせて、IT投資を進めていきましょう。