新型コロナウイルスの感染拡大により、働き方改革、DX推進のスピードは飛躍的に上がりましたが、多くの企業が対症療法的なテレワーク環境の整備やIT活用に終始しており、DXが本番化していないのが現実と言えるでしょう。

DXがされない大きな要因のひとつにDX人材の不足が挙げられます。以前より指摘されている人材不足について、DX人材の役割や定義、人材をどのように確保するかについて解説します。

目次

日本のDXは国際的に致命的な遅れ

スイスの国際経営開発研究所(IMD=International Institute for Management Development)が発表した「デジタル競争ランキング」の2021年版では、日本は64カ国中28位となっています[※1]。日本は過去数年20位代を上下していましたが、2021年は過去でも最低の順位となっています。

欧米との遅れはもちろんですが、2位のシンガポール、5位の香港の他、台湾、韓国、中国のアジア諸国からも後塵を排する結果となっています。

同ランキングは、52項目の指標で評価されています。52項目の中でも日本の評価が低かったのは、「国際経験」「企業の俊敏さ」(ともに64位)、ビッグデータ解析の利用(63位)、「デジタルスキル」「移民法」「機会と脅威」(それぞれ62位)で、64カ国中最下位に近い結果となっています。

以前から日本のDX推進の遅れは指摘されていましたが、2021年になってもその遅れを挽回するどころかデジタル先進国に差をつけられていることがわかります。

※1…IMD「World Digital Competitiveness Ranking」

推進の課題は人材不足と経営の関わり方

DX推進の課題

日本のDXがなぜ進まないのか? この課題についても多くのメディアで指摘されていますが、もっとも大きな要因は「DXの人材不足」だと言われています。事実、総務省「令和3年版 情報通信白書」によると、企業の53.1%が課題として挙げています。またアメリカ、ドイツと比較しても人材不足の課題が突出して高いことがわかります。「ICTなど技術的な知識不足」も23.8%あり、自社の環境や状態からDXのビジョンやロードマップを描き、その手段や解決策を具体化するに至るまでに大きなハードルがあることが推察されます。

経済産業省は、2030年にはIT・DX人材は45万人が供給不足になると予想しており、そのような人材の7割はIT企業に所属しています。

DX人材の確保・育成に向けた取り組み

このような状況下で企業はどのようにDX人材を確保しようとしているのか? 上記の結果では、日本企業の47.3%は「社内外の研修の充実」により育成する方針をとっていることがわかります。続いて中途採用が36.1%となっていますが、貴重な人材は争奪戦の様相を呈しているので、採用コストや人件費、費用対効果を考慮すると、なかなか手が出しにくいというのが本音でしょう。

また「特に何も行なっていない」が18.5%との割合を占めており、一定数の企業は無策、無関心であることがわかります。

※2…総務省「令和3年版 情報通信白書」

DXを推進する人材と6つの役割

では、DX人材とはどのようなスキルセットを持つのでしょうか? 当たり前ですが、DX人材と言っても多岐にわたり、求められるスキルやマインドは異なります。

経済産業省の「DXガイドライン」では、「DX推進部門におけるデジタル技術やデータ活用に精通した人材」「各事業部門において、業務内容に精通しつつ、デジタルで何ができるかを理解し、DXの取組をリードする人材、その実行を担っていく人材」と定義しております。

また独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)では、下記の6つの役割を定義しています[※3]

・プロデューサー
DXやデジタルビジネスの実現を主導するリーダー格の人材(CDO・CIOを含む)

・ビジネスデザイナー
DXやデジタルビジネスの企画・立案・推進等を担う人材

・アーキテクト
DXやデジタルビジネスに関するシステムを設計できる人材

・データサイエンティスト/AIデザイナー
DXに関するデジタル技術(AI・IoT等)やデータ解析に精通した人材

・UXデザイナー
DXやデジタルビジネスに関するシステムのユーザー向けデザインを担当する人材

・エンジニア/プログラマ
上記以外にデジタルシステムの実装やインフラ構築等を担う人材

これらの人材がすべて過不足なく在籍している一般企業は、非常に稀だと言えます。またすべての職種がいないとDXが進まないというものでもありませんし、企業によってはすべてを自社でまかなう必要もありません。

※3…独立行政法人 情報処理推進機構「デジタル・トランスフォーメーション推進人材の 機能と役割のあり方に関する調査」

DX推進者の国別比較

DX推進者の国別比較

こちらは日本、アメリカ、ドイツのDX推進の担当者の割合です。DXを推進するにあたり、推進室やプロジェクトチームを発足することは成功事例として固まりつつあり、3カ国とも大きな差はないことがわかります。一方でアメリカ、ドイツと比較して、日本の比率が少ないのは「社長・CIO・CDO」「外部コンサルタント・パートナー企業等」になっています。一概にはいえませんが、経営との関わり方が薄く、現場の推進チームでなんとかやりくりしようとしている事実が見え隠れします。

またデジタルテクノロジーやデータ、プログラミングなどの深い知識があるのはもちろんですが、ビジネス構造を理解して、プロジェクトマネジメントを実行できるスキルも必要です。どの役割が社内に必要なのか、強化すべきポイントはどこか、優先順位は、と整理して検討するのは最初の一歩となるでしょう。

DX人材を確保する3つの方法

DX人材を獲得するには、具体的に3つの方法があります。採用する、社内での育成、外部に依頼する、です。それぞれの方法について解説します。


新卒・中途で採用する

もっともシンプルな方法は新卒もしくは中途での採用です。しかし、実現するのは非常にハードルが高くなるのもこの方法です。前述した通り、DX人材といっても役割は多岐にわたるので、採用ターゲットを明確に設定できなかった場合、そもそも応募が来ませんし、業務内容の魅力を伝えられない場合は、採用に至りません。またDX人材の年収は年々高くなる傾向にありますので、競合との待遇勝負になるケースも考えられます。ロードマップが策定されており、中長期でのプランが具体的になり、必要なスキルやマインドも特定できているのであれば、採用に踏み切るのもありでしょう。

人材への投資判断にもなりますが、中途でハイスキル人材を採用して、社内での育成、外部パートナーのコントロールを担ってもらうなど、推進体制の役割を明確にすることが重要です。


社内で人材育成をする

社内で育成をするのは、中長期での視野で捉える必要があります。いますぐDXを推進したい場合などでは、社内担当者にとって大きな負荷となりますし、知識やスキルが追いつかずプロジェクトも頓挫してしまいます。育成をする場合は、長期での育成プログラムを立案して、同時に短期的な課題の解決法を模索する必要があります。

また前述の通り、すべての役割を育成する必要もありません。例えば、プロデューサーやビジネスデザイナーなどプロジェクトを推進する役割は社内で育成し、実際の設計や構築は外部パートナーに委託するなど社内外で必要な役割を分担して考えるのが良いでしょう。


コンサルティングや外部人材を活用する

そして、最後が外部にアウトソーシングする方法です。アウトソーシングする場合も、ロードマップ策定や課題抽出、ビジョンなどの初期段階からコンサルティングとして相談をすることもできますし、現実的な課題への解決策の提示や実行、ツールやソリューションの調達など自社のフェーズに合わせて、相談できるのがポイントです。

また従業員への育成や定着などの課題もあります。DX推進をする上で、各フェーズで何かしらの課題を生じますので、常に相談ができるパートナーがいることでスムーズに解決できるでしょう。

まとめ

DX人材が担う役割は多岐にわたります。経営戦略に則ったDX推進のロードマップの策定からプランニング、必要な施策や制度、実現するために必要なツールやソリューション、端末、セキュリティ……そのため多くの企業が推進室やプロジェクトチームを発足して、推進しています。

企業の大小に関わらず、そのすべてを社内人材で完結できる企業はごく一部に限られます。育成、採用、外部パートナーとの連携は、どれかひとつで解決はしないので、社内の状態を把握し、同時並行的に進めることで推進のスピードも速くなるでしょう。

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