はじめに
現在、様々な企業で業務の見直しが迫られています。数年前より政府から号令が出た「働き方改革」の流れに加え、2020年のコロナ禍にともなうテレワーク等の推進によって、オフィスを軸にした業務設計ではうまく回らなくなっている現状があるためです。
そのなかで注目が高まっているのがBPR。本記事ではBPRについて、定義や推進するメリットと方法、実際に進めるうえでのポイントを、具体事例を交えてご紹介します。業務改善とは違う概念なので、あわせて理解しましょう。
BPRとは?
まずはBPRの定義やメリットについて見ていきましょう。
BPRとは?
BPRとは「Business Process Re-engineering」の略で、企業の様々な業務プロセスを抜本的に改革していくアプローチのことを指します。本来必要な業務は何か、という観点に基づいて既存の業務や組織全体を分析し、業務プロセスを可視化したうえで、業務フローからシステムまでをトータルでリデザインします。
この考え方は、1993年にMichael HammerとJames Champyの両名によって共著された『リエンジニアリング革命: 企業を根本から変える業務革新』(日本経済新聞出版)によって一躍有名になりました。
BPRと業務改善の違い
BPRは業務改善と混同されやすい概念ですが、両社は似て非なるものです。業務改善は「業務の効率化」を軸にした改善施策で、部分的な改善を意味します。
一方、BPRは業務の必要性から逆算して考え、プロセスそのものを丸ごと再構築するような業務改革を進めていくものです。
BPRを推進するメリット
BPRを推進することで、企業は以下のメリットを享受できます。
- 必要な組織改革が分かる
- 顧客と従業員両者の満足度上昇が期待できる
- 目標達成率が上がる
BPRを進める方法
次に、具体的にBPRを進める方法について見ていきましょう。大きくは2つです。
方法①ERPの導入
日本企業の多くが実践しているのが、ERPの導入です。ERPとは「Enterprise Resource Planning」の略で、日本語では「統合基幹業務システム」と訳されます。
企業にはヒト・モノ・カネ・情報という様々なリソースが存在しており、各資源を事業内容や部署に応じて適切に分配することで、生産性を高めて商材等をアウトプットしています。
具体的には、経理部門による財務会計や、生産部門による生産管理、人事部門による給与・労務管理、そして営業部門における販売管理などが挙げられます。
ERPは、このような企業の基幹業務をシステム的に統合管理し、各資源を有機的に管理できる仕組みを提供してくれます。ERPの導入が、BPRの進め方として最もスタンダードであるといえるでしょう。なお、ERPは主に事業が複数部門存在する大企業向きであると考えられています。
方法②業務プロセス可視化・構築
業務プロセスを可視化して問題点を洗い出し、再構築するというアプローチもあります。こちらはERPと違ってシステムの導入に限らないものです。
業務プロセスを可視化する際には、様々なフレームワークを使うと良いでしょう。たとえば業務プロセスフローを簡略的に図式化する「BPMN(Business Process Modeling Notation)」。既存業務が標準化した流れで表現されるので、誰が見てもわかるようになるメリットがあります。
また業務フローの順番にフォーカスした「バリューチェーン分析」や、業務の振り返りにフォーカスする「KPT」といった手法を使っても良いでしょう。いずれにしても、自社の業務状況の適切な理解が、最も大切なポイントになります。
目的に合ったBPRが大切
以上のように、BPRを進めるといっても、そのアプローチは細かく何通りにも分かれます。前述の通り、多くの日本の大企業が行っているのはERPを自社仕様にある程度カスタマイズして導入する方法となりますが、これだけが正解というわけではありません。
自社の状況を適切に見極め、それぞれにあった業務改革を行うことが大切です。
BPRの国内成功事例
それでは、実際にBPRを進めた成功事例を見ていきましょう。
株式会社ビズリーチ
ダイレクトリクルーティング事業で成長してきた株式会社ビズリーチでは、メイン事業である「ビズリーチ」の他にも、キャリアトレックやHRMOS、スタンバイ、ビズリーチ・キャンパスなど、様々な事業を展開しています。企業の成長とともに事業数も増え、それに伴って請求フローなど様々な業務プロセスが煩雑化している状況にありました。
そこで同社は、会社全体の業務プロセスを最適化する「BPRチーム」を発足しました。チームには、社内外における業務プロセスの見直しや、無駄や不合理な部分を省いた最適なプロセスの構築が求められます。
同社が据えたBPRのゴールは「それぞれのサービスが提供できる価値を最大化すること」でした。これに対し、チーム発足時は以下の課題が横たわっていました。
課題1:接点を持った顧客データを活用しきれず、複数サービスを効率よく届けられていない
課題2:同じ仕事を違う部署が各自のやり方で行っている
課題1は、MA(マーケティングオートメーション)ツールの導入で「データの一元管理」と「顧客のモチベーションの適切な可視化」を実現し、より効率的な営業・マーケティング活動を進めることができるようになりました。
また課題2は、事業部ごとに存在する各業務が、事業を生み出す仕事なのか間接業務なのかを仕分けしていき、あぶり出された間接業務について、他部門のものと共通化して統合するアプローチをとりました。
結果的に、プロジェクトが一通り終わった段階では、社内における情報転記コストがなくなり、また請求業務が省力化して、システムをメンテナンスするエンジニアの工数も削減できるなど、大きな成果が残せたのです。
参考:https://www.wantedly.com/companies/bizreach/post_articles/75057
日鉄ケミカル&マテリアル
日本製鉄グループの化学・素材メーカーである日鉄ケミカル&マテリアル。ここでは多くのグループ会社や事業部門を管理する統一のシステム基盤が整備されておらず、Excelで属人的な管理を行ったり、グループ会社間や部門間の情報連携が非効率であったりと様々な課題を抱えていました。
そこで同社は、業務面とシステム面の両面で10年後のグループのあるべき姿を策定し、その一環としてシステムの再構築プロジェクトを実施しました。その際の基本方針は、「競争力ある業務環境の提供を目指し、情報と業務を繋げ、業務を高速化・可視化する」ことです。
プロジェクトをすすめるため、同社はグローバル対応ERP×SCMパッケージを導入。システム導入によって、同社ではデータの一元管理による情報の可視化と共有化、リアルタイム化が実現し、素早い経営判断が可能となりました。
また、属人化業務を排除して業務の標準化と内部統制の促進を進めることができ、さらには品質管理機能や対応力の強化にもつながっています。
BPR実践のポイント
BPRを実践して成功させるためのポイントを見ていきます。
小さい範囲から進める
業務改革は、早く進めたいがあまりいきなり全社導入など大きな単位で始めがちです。しかしまずは、運用面やコスト面を考えて部門ごとなどスモールスタートしてみるのが良いでしょう。部門で問題なく運用できていれば、少しずつ対象部門を増やしていくというアプローチがおすすめです。
実践する業務プロセスは慎重に選ぶ
次に、実践する業務プロセスは慎重に選ぶようにしましょう。とくに、難易度を確認したうえで、着手すべき優先順位を鑑みて進めましょう。
極端な例として、優先順位はさほど高くないものの難易度が高いプロジェクトを一部分ですすめ、失敗してプロジェクトチームのモチベーションが下がってしまい、結果として全体のBPRが滞ってしまっては本末転倒です。自社のリソース状況を見極めて、実践する業務プロセスは慎重に選びましょう。
情報共有をきちんと行う
BPRの効果を最大化するためには、情報共有の徹底が必要不可欠です。現在のプロジェクト状況はどのような位置付けで、実践した業務プロセスはどのような効果を発揮しているのか。現場とプロジェクトチームのシームレスな情報共有が必要不可欠だといえます。
PDCAサイクルを回して分析
最後は、プロジェクト全体でのPDCAサイクルの実施です。BPRは一つのプロジェクトが終了したら、それで終わりではありません。改善を続けることで、継続的な業績アップにつながり、企業間での競争力も向上していくことになります。
しっかりとPDCAを回していく意識をもち、そのためのチーム体制を構築することが必要です。
自社に合ったBPRを推進しよう
今回はBPRの定義や推進するメリットと方法、実際に進めるうえでのポイントを、具体事例を交えて解説しました。今回ご紹介したもの以外にも、成功事例はたくさんありますが、いずれにも共通していることが、目的を明確化させて実践しているということです。
まずは目的を明確化させ、現場含めた状況がしっかりと把握できた上で、自社に合ったBRPを推進すべきです。そのためにも、業種業態の近しい他社事例を参照するの重要でしょう。
コネクシオでは、自社の業務プロセスを改善したい企業様へ、モバイルを活用したソリューションを中心に様々なツールをご提供しています。ぜひお気軽にご相談ください。